警察犬競技会における咬傷事故

2016/1/8更新

2016/1/8

警察犬競技会における咬傷事故判決の続報
最高裁、2016年1月5日被告側の上告棄却、上告受理申立を却下、東京高裁12民判決が確定

当HP、2015年7月22日付で掲載した警察犬競技会において発生した審査補助員に対する咬傷事故に関し、被告らは最高裁に対し上告と上告受理申立をしていましたが、2016年1月5日最高裁は上記の判断を下し、その決定が1月7日届きました。

被害者の完全勝訴判決を言渡した東京高裁12民判決が確定しましたのでご報告します。

この裁判をご支援下さった方々に深く感謝する次第です。この事件が契機となって中断していた中部訓練チャンピオン決定競技会が一日も早く再開されることを望むものです。

2015/7/22

警察犬競技会において発生した審査補助員に対する咬傷事故に関し、東京高裁第12民事部(裁判長杉原則彦、右陪席高瀬順久、左陪席朝倉佳秀 各裁判官)が加害犬の指導手とその使用者に対して、過失相殺3割を認定した一審静岡地裁判決を覆し、10割の過失を認定し、被害者完全勝訴

第1 3割の過失相殺を認めた一審判決を覆し、完全勝訴判決を言渡した二審判決

  1. (事件の概要)2012年3月4日、静岡市の安倍川グラウンドで開催された社団法人日本警察犬協会静岡県中部支部主催の警察犬競技会の臭気2部選別競技で、審査補助員をしていたAさん(男性、1950年6月生、本件当時61歳、1995年から2009年まで自らも飼育する2頭の警察犬の訓練をし、競技会にも参加歴を有し、スタッフとしてボランティアで審査補助員等を務めて来た)が、X県にある日本警察犬協会公認訓練所に所属する訓練士が指導手として帯同して本件競技に参加させていたシェパード犬に顔面を咬まれた重傷事故に関し、東高12民杉原則彦裁判長は、指導手に対し動物占有者としての責任、訓練所経営者に対し使用者責任を認め、Aさんの過失相殺ゼロの、原告請求どおりの完全勝訴(賠償額447万5848円)を、2015年7月15日言渡しました。

    • (1) 一審判決は指導手と訓練所経営者の損害賠償責任は認めたものの、他方で「(Aさんが警察犬の攻撃を)腕で防いだり、身をかわしたりして、顔面に噛み付かれる事態を回避することが可能であるものと推認される」、「警察犬の動静に十分な注意を払うことなく補助員を務めていたという過失がある」等として、Aさんに3割の過失責任を認定しました。

    • (2) これに対し、Aさんは控訴し、控訴審において指導手と訓練所経営者側の目撃者1名の証拠調べを含む2口頭弁論期日と3和解期日を経た上で、判決は「(Aさんが)特段挑発的な行動をしたわけでもなく、補助員として通常の作業を遂行していた際に、いきなりその顔面に噛み付いたのであるから、(加害犬は指導手によって)適切にしつけられていたということはできない」とし、また、「(指導手は)本件警察犬が異常な動きをしようとしていることを察知することができず、Aさんに飛びかかる本件警察犬を事前に押さえることも、飛びかかる瞬間に制止することもできなかったことからしても、(指導手が)相当の注意をもって加害犬の管理をしたということはできない」として、指導手らに対する過失責任を認めました。

    • (1) その上で、過失相殺については、「(補助員の作業に伴い)Aさん自身は意識しない程度に頭の位置が下がっていたことが認められるが、それ以上に、Aさんがあえて本件警察犬に向かって頭を下げたり、本件警察犬に近づいたことを認めるに足りる的確な証拠はない」とし、要旨①証人らは、本件競技と同様の競技においてこれまでに咬傷事故があったと聞いたことがないと証言していること、②本件競技と同様の競技が行われた他の競技会を撮影した動画によると、補助員等が何ら問題なく指導手や警察犬に近づいたり、身体をかがめたりしていることも加え、本件においてAさんが補助員としての作業をするに当たり過失があったということはできないと認定しました。

    • (2) また、原判決がAさんの過失とした回避可能性については、「本件警察犬の体格や運動能力、また、指導手ですら本件警察犬がAさんに噛み付くのを全く阻止できなかったことに照らすと、補助員であるAさんが腕で防いだり、身をかわしたりして本件警察犬に噛み付かれる事態を回避する現実的な可能性があったとは認められない」とし、それらを総合して、本件において過失相殺はすべきではないと判示しました。

  2. 私が調べた限り、警察犬競技会での咬傷事故の裁判例は初めてであり、犬の咬傷事故の判例として長く判例集に残るものと思います。

第2 提訴に至った経緯

  1. Aさんは自分で犬の両顎に手を入れ、食い込んだ牙を抜き、出血量が多く意識が朦朧とした状況で大会テント内に運ばれた上、救急車で病院に運ばれ、顔の動脈が切れていて、医師の懸命の止血治療等の結果、3月12日退院となった。しかし、その後通院したが、顔面や機能には後遺症が残った。

  2. 被告側は3月5日に5万円の見舞金を払い、治療費や慰謝料の支払いに応じると当初は言っていたものの、4月6日付で身内の弁護士を立てて、見舞金の5万円と入院費87,920円の支払いで解決済みと通告してきた。

    • (1) これには警察犬を飼育し、競技会に参加し、また競技会で運営ボランティアをしている愛好家たちが怒った。その人たちがAさんに私を代理人に推してくれ、裁判もその人たちの全面協力で今回の東高判決を迎えることができた。

    • (2) 本件事故があって以来、34回まで続いた中部訓練チャンピオン決定競技会は中断となっている。2013~2015年まで3回開催されていない。被告側が応訴し、裁判の中で、中部支部長に対しては安全配慮義務違反があったとし、本部の公益社団法人日本警察犬協会に対しては共同不法行為者に対する求償請求が出来るとして訴訟告知を為している。正に全く反省がないどころか、居直りさえ感じる。

    • (3) 私は社会正義が東京高裁で完全に通り、しかも警察犬競技会の咬傷事故では初の判例なので、是非全国ネットでメディアに取り上げてもらいたいところです。しかし、全面的に裁判に協力してくれた人たちが、つい最近も北海道で大型犬の咬傷死亡事故がある中で、メディアの取り上げようによっては周囲の目や誤解・偏見によって、警察犬の散歩や訓練もままならぬと心配しています。訓練士が日ごろ犬と信頼関係を深め、適切にしつけていれば事故は防げるし、日ごろの信頼関係としつけの中で、犬が何らかの異常な動きをしようとしている場合には、指導手は直ちに察知できるはずであり、察知して直ちに制御すれば事故は防げるというのが東高判決の最も云わんとしているところです。本件が間違った取り上げられ方をして、大型犬に対する世間の誤解・偏見が助長され、中部訓練チャンピオン決定競技会の再開が遅れることを支援者は心配しているのです。

    • (4) 支援者の懸念を吹き飛ばし、裁判による社会正義の回復に共鳴するメディアの取材と報道には全面協力します。

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