最終更新日:2020年2月4日
「セクハラ被害」の更新履歴
2020/2/4 性暴力被害の民事訴訟の原告(被害者)代理人として痛感した、性暴力被害の実情・実態と乖離した裁判所の性暴力被害に対する無理解・偏見
2007/7/30 セクハラ被害解決事例と教訓
2007/2/8 セクハラ食堂店主に110万円の賠償命令〜静岡地裁民事2部2係2007年2月7日判決
2020/2/4 性暴力被害の民事訴訟の原告(被害者)代理人として痛感した、性暴力被害の実情・実態と乖離した裁判所の性暴力被害に対する無理解・偏見
1(1)2019年12月18日、東京地方裁判所でジャーナリストの伊藤詩織さんが元TBS記者山口敬之氏に対し損害賠償を求めて起こした民事訴訟の判決言渡しがあり、東京地裁は山口敬之氏に対し330万円の支払を命ずる判決を言渡しました。伊藤さんの訴えが認められたことで、これまで声を上げられずに泣き寝入りを強いられることの多かった性暴力被害者が声を上げやすい社会になると共に、性暴力被害者の実情・実態が社会全体に広く認識され、性暴力被害の減少に繋がることと思います。
(2)伊藤詩織さんは事件当時、山口敬之氏に就職を相談していました。事件の数日後、元支局長に「無事にワシントンに戻られましたか」とのメールを送っています。裁判で「合意があった」と主張した山口敬之氏はこれを取上げ、「被害を受けた女性が加害者に発信する言葉かけとしては通常あり得ない」と主張。伊藤詩織さんの供述の信用性に疑問を呈しました。これについて判決は「被害者が被害の事実をにわかに受け入れられず、それ以前の日常生活と変わらないふるまいをすることは十分にあり得る」と指摘。伊藤詩織さんのメールも「従前の就職活動の延長として送られたとみられる」として、供述の信用性は揺るがないとしました。また、山口敬之氏側は伊藤詩織さんに「ホテルのトイレに逃げ込んだ時、中に電話があった。フロントに助けを求めなかったのはなぜか」とも問うています。これについても判決は「伊藤詩織さんの供述によると、動揺して自らの状況が把握できず、冷静な判断が出来ない状態だったと容易に推察される」と判断。電話をかけなかったことは「不自然とは言えない」と述べており、被害者であれば助けを求めた「はず」、逃げた「はず」といった「思い込み」や「決めつけ」を前提とした強姦神話に囚われることなく、性犯罪被害者の心理を理解し書かれた判決でした。
2 一方で、2019年3月以降、刑事事件において、性暴力被害で誤った固定観念(偏見)に支配された裁判体(裁判官)の無罪判決が相次ぎ、各地で被害に遭った女性を中心としたデモ活動・集会等、裁判官の性暴力事件における誤った判決に対する抗議運動が行われ、その活動は広がりをみせており、2019年4月11日に東京で開催されたフラワーデモは、2019年12月11日には全国の29都市で開催されるまでになりました。各刑事事件で無罪判決を言渡した裁判体の観念・性認識が、性暴力被害者の実情・実態と乖離していることの表れであり、刑法の改正と共に、裁判所には、裁判官に対する教育を含め、裁判官が性暴力被害者の実情・実態について正しい認識を得るための機会を設けることが必要不可欠であると考えます。
3 上記のとおり、性暴力被害で誤った固定観念(偏見)に支配された裁判体(裁判官)に対する抗議運動が行われる中、私が担当した強制性交の民事訴訟では、裁判体の性暴力被害に対する無理解・偏見により、強制性交について一審敗訴判決、二審敗訴的和解勧告であり、全く納得のいくものではありませんでした。
4 私が担当した性暴力被害者の民事訴訟の事案は以下のとおりです。
  皆さんのご意見をメール・FAXでお寄せ下さい。

(1)Aさん(原告)は20代、東京の私大を卒業後東京でメディア関連の仕事をしています。
(2)2017年夏、Aさんは、職場の先輩(男性)がふざけてAさんの携帯電話にSNSのアプリをダウンロードしてAさんの携帯電話を操作し、同SNSの会員であったB(30代男性)とマッチさせました。Aさんは意図せずBとメッセージのやり取りが出来るようになってしまったものの、AさんはBには失礼のないよう、誠実に対応していました。Bは、男女交際目的で同SNSに登録していました(Bの反対尋問で判明)。AさんはBから何度も「飲みに行こう」と誘われ、何度も断るのが申し訳ないと思ったAさんは、新宿駅東口で待ち合わせをする約束をしました。
(3)AさんがBと約束した日まで、Aさんは映画の撮影で数週間仕事が詰まっていたこと、Aさんは同日行われた映画の舞台挨拶準備と撮影を担当しており、ゲストを迎え、一日中カメラを回しながら会場を歩き回ったので、非常に疲れていました。また、同日の仕事が長引いたため、Aさんは約束の時間から1時間遅れて着きました。AさんはBに誘導されるまま、駅近くの居酒屋へ行き、お互いの自己紹介をして、Aさんは今の仕事に情熱を注いでいることを具体的に話し、また、同日舞台挨拶が行われた映画をBがお客さんになって観てくれるといいなと思っていたことから、映画の話(宣伝)をしながらお酒を飲みました。また、BはAさんのことが好きだというようなことも口にしましたが、Aさんは同日舞台挨拶が行われた映画のスタッフとして、悪い心証を持たれたくないと思い、Bに対し「ありがとうございます」「そんなことないですよ」等と応対していた。
(4)約4時間飲んだ後、Bが飲食代金を支払い、店を出たところでAさんが帰宅しようとしたところ、AさんはBから「次に行こう」と言われました。Aさんは疲れていたので帰宅したかったのですが、Bが「終電がなくなって帰れない」(注1)と言って食い下がった為、店の飲食代を支払って貰った上、タクシーで帰宅させるのは申し訳ないと思い、次の店に行くことにしました。
(5)Aさんは、自身が酒に強いと自負しておりましたが、ウィスキーやハイボールを5,6杯飲んでいたこと、同日まで仕事が忙しかったことから、その時点では酒に酔い、Bに腕を組まれて連れて行かれる状態でした。
(6)少し歩いたところで、BがAさんを連れて歌舞伎町のビジネスホテルの中に入り、靴を脱いで上がったところでBが有人の受付を済ませ、エレベーターで部屋へ移動したところで、Aさんはホテルに連れ込まれたことに気が付きました。
(7)部屋に入るとBはいきなりAさんをベッドに押さえつけました。Aさんは「嫌だ」と言って全力で抵抗しましたが、身長180cmもある男の力でねじふせられ、BはAさんが言うことは全く無視してAさんの服を脱がして強制性交し、Bは避妊具を着けようとしなかったため、Aさんは「絶対に嫌だ」「それだけは本当にやめて!」と言って蹴ったり殴ったりすごく抵抗しましたが、力でねじふせられ、Bは聞く耳をもちませんでした。AさんはBによって2回も強制性交され、3回目は、Aさんが「痛いからやめて下さい」と言って何度も懇願したところ、未遂に終わりました。Aさんは身体がだるくて痛かったこと、仕事の疲れ、酒に酔っていたことから、朝まで眠ってしまいました。
(8)翌日、Aさんは、BのLINE以外の連絡先、住所、勤務先等を聞き出せておらず、Bに連絡を絶たれてしまったら今後何かが起きたときに困ると思い、表面上は平静を装ってBと共にホテルを出て、新宿駅で別れました。
(9)本件当時、Aさんは緊急避妊薬に関する知識がなかったため、緊急避妊(アフターピル)の措置は取りませんでした。
(10)Bから強制性交された翌日から、Aさんは陰部に痒みが生じ、市販薬で対処していましたが治らなかったため、医療機関で検査を受けました。
(11)その10日後、医療機関で検査結果を聞いたところ、Aさんはカンジダに罹患したことが分かりました。同日、Aさんは生理が遅れていたため、念の為妊娠検査したところ、妊娠していることが判明しました。
(12)AさんがAさんの静岡県に住む母に妊娠したことを相談したところ、まずはBと会って情報を掴んだほうがいいという結論になりました。Bに会いに行く際には、Bには内緒でAさんの母も同行することにしました。
(13)AさんはBに対し、妊娠したことは告げずに「相談したいことがある」とだけ伝え、Bの家で会う約束をしました。Aさんは、Bに責任を取ってもらうため、逃げられないよう、何の話をするのかは敢えて事前には告げませんでした。また、Bの住所と仕事を確認しておきたいという思いもありました。
(14)Aさんは子供が好きでしたので、予想しなかった妊娠に動揺はしたものの、子供は産み育てたいと思い、そのためにはどうしたら良いか方法を探そうと考えました。
(15)AさんがBとBの住むアパートの最寄駅で待ち合わせをし、Bの住むアパートへ行きました。Aさんの母は、タクシーで二人を追跡し、Bの住むアパートへ入ったところを確認し、何かあったらすぐに駆けつけられるよう近くで待機していました。
(16)AさんがBに妊娠したことを告げると、Bは謝罪するどころか当然結婚するものとして話を進めました。Aさんは、Bから当然のように結婚の話をされ、動揺しました。AさんとBは話合いをし、途中でAさんの母を部屋へ呼び、3人で話合をし、Bは「条件(Aさんが今の仕事を続けること、現在の二人の自宅の中間辺りに引っ越すこと)は全部のみます」「自分が守るので結婚しよう」と言いました。
(17)数日後、Bは「子供いたら共働きは難しい」「(Aさんが)退職したら今の俺の家で一緒に住んで、・・(以下略)」等とLINEメッセージを送って来ました。Aさんは「仕事をやめるなんて考えられない」等と返信しましたが、Bは「送り迎えと、体調崩したりすると急な呼出しあるから、家と職場と保育園が近くないときびしいのかなあと思ったけど」等と話し、BはAさんが妊娠を告げた日の発言とは一転させた話をしました。Aさんは、出産・育児をするに当たって、シングルマザーは経済的にも労力的にも負担が大きいので、父親がいた方が良いとの知人らからのアドバイスを受けて、結婚も選択肢として考慮すべきなのだろうかと思案していましたが、Bの態度の変化をみて、AさんはBとの結婚という選択はあり得ないと判断しました。
(18)Aさんは子供を産みたかったものの、結婚せずにBが養育費を負担するという提案に対し、Bは遠まわしに「養育費は支払わない」とのことでした。Bから経済的協力を得られない可能性が高いこと、知人らからシングルマザーはやめた方がいいと止められたこと等から、子供を産み育てることは現実的には難しいと思うようになりました。
(19)Bは電話で「結婚も出来ず、自分が子どもを引き取ることも出来ないのであれば、中絶するしかない」「中絶費用は出します」と言いました。
(20)Aさんは、中絶することに決めました。
(21)Aさんは、中絶手術の術後経過が良くなかったため、術後1カ月間、休職せざるを得ませんでした。収入の道が断たれ、また、AさんはBによる強制性交、Aさんの意に反した妊娠、そして中絶手術での恐怖がトラウマとなり、急性ストレス反応の診断を受け、通院、服薬しなければならなくなりました。
(22)AさんはBに対し書式(注2)をネットで調べて和解書を作成し、慰謝料300万円を請求しましたが、Bは弁護士に相談し、Bの代理人弁護士からAさんへ書面が届いた為、AさんがB代理人弁護士へ電話したところ、同弁護士は「性行為は同意の上行われたことと考えている」「強姦の主張をするのであれば、金銭の支払には応じられない」との趣旨の話をしたため、Aさんと両親は私に相談し、Bに対する損害賠償請求の裁判を東京地裁に提起しました。
(23)Bは、強制性交を認めず、男性優位の誤った固定観念(偏見)に支配された主張を繰返し、争いました。Bがホテルに入る際に、Aさんに「ここでいいよね」と確認したと主張していることについて、主尋問で根拠を聞かれ、Bは「ふだん必ず聞きますので」と証言しました。また、Bは主尋問で避妊具をつけなかった理由を聞かれ「持っていないのと、ふだん、自分が交際した女性とはどうしても向こうが嫌がらなければ着けないっていうふうに自分がいつもしてきたからです」と証言し、反対尋問でも同理由を訊かれ「妊娠してしまう可能性もありますけど、今まで実際に妊娠してこなかったので」と証言しました。Bの「ふだん」「いつも」「今まで」との発言から、Bは、出会系サイトを利用して常習的に相手女性をホテルに連れ込んでいること、女性の意思には関係なく避妊具を着けずに常習的に性行為をしていることが分かったと共に、Bの意識には「性的同意をとる必要があること」「相手には性的自己決定権・性的自由・人間としての尊厳があること」など毛頭なかったことが明らかとなりました。
(24)@しかし、東京地裁の担当裁判官(男性)は「本件ホテルまで同行したこと」「部屋の中まで入ったこと」「朝まで一緒に本件ホテル内で過ごしたこと」「2回にわたって性交したこと」「妊娠が判明した後、Bの部屋まで一人で行って話合いをしたり、Bとの結婚を一時的には選択肢の一つとして考えていたこと」「Aさんが原案を作成した和解書には、AさんとBが交際関係にあったことを前提にした記載があること」を理由として、Aさんの意思に反する強制性交が行われたとは認めがたいとして、Bによる強制性交を認めませんでした。また担当裁判官は「Bにおいて、Aさんの同意があると誤信したことについて、止むを得ない状況があったと評価せざるを得ない」と判断し、Bの強制性交は認めず、BがAさんの同意もないまま避妊具をつけずに性交に及び、妊娠させたことについては不法行為を認め、Bに対し、Aさんの精神的苦痛の慰謝料として50万円と、休業損害、治療費等として30万6490円の支払を命じるだけでした。
A Aさんは、一審判決に対し怒り、「一審判決を下した裁判官が『被告が誤解していたら罪を犯しても仕方がない』という結論を下したことに非常に憤りを感じております。これでは、どんなレイピストも『誤信していた』『わからなかった』といえば、違法行為が認められないということになると思います。司法における強制性交加害者擁護に他ならない前例です。
  一審判決は「仮に原告が性交することに同意していなかったとしても、被告において性交することに同意があると誤信したことについて、止むを得ない状況があったと評価せざるを得ない」と判断しています。これでは、被害者が強制性交の加害者を訴えたとしても、加害者が「(同意があると)誤信していた」「(同意していないことが)わからなかった」と言えば、違法行為として認められないということです。被害者が、加害者に対し拒否した言葉をボイスレコーダー等で録音し、証拠として裁判所へ提出したとしても、加害者が「拒否されたとはわからなかった」と言えば責任を免れるということにもなるではないでしょうか。被害者は、被害者が抵抗をした際や強制時に明らかな暴行を受け、防御創ができており、その傷の写真や医師による診断書がなくては、強制性交の被害者とはならないということなのでしょうか。強制性交加害者を訴えたときに、被害者側がセカンドレイプや精神的ストレスにさらされながら立証責任を負わされる上、裁判所が被害者が性交に同意していなかったとしても、加害者が「(同意していると)誤信していた」「(同意していないことが)わからなかった」場合は強制性交が違法行為に該当しないというなら、この国は民事上で強制性交を裁く司法が存在しないということとほとんど同義だと思います」と述べました。
B 一審判決後、Bは1審認容金額を遅延損害金を含めて全額支払って来た上で、附帯控訴をして来ました。
(25)私と事務所担当スタッフがAさんの裁判官に対する怒りと失望を宥める中で、Aさんは控訴を決断しました。
(26)東京高裁民事部(3人の裁判官は全員男性)で開かれた2019年9月4日付第1回口頭弁論期日で、1回結審となり、裁判長から和解勧告がありました。一審被告代理人不在の場で、主任裁判官から当職に対し「翌日までホテルに一緒にいたこと、結婚の話までしていることから、強制性交の認定は難しい」「ホテルの受付があったこと、靴を脱いだこと、客観的には同意ではないのか」等と、同裁判官はAさんに厳しいことを言いました。
(27)2019年9月19日、主任裁判官から当事務所へ電話があり、「Aさんの方が、Aさんの同意がなかったことを立証しなければならない。本件はAさんにとって不利な事案です」と話しました。当職は「Bの方に、Aさんが性交を同意していたことを立証する必要がある」「世論でも同意のない強制性交が無罪を言渡され、社会問題となっている」と主任裁判官に反論しましたが、主任裁判官は「この事案では難しい」等と述べました。Aさんは部屋に入って強制性交されそうになった時、Bに対し抵抗したことを主張し、尋問で証言して立証している上、BからはAさんの主張立証に対する有効な反論、反証はなかったにもかかわらず、主任裁判官は「(同意していなかった)証拠がない。(証拠とは)供述をどこまで信用出来るか。(ホテルであることを)フロントまで行って分からなかった、部屋に入るまで分からなかった、そこまで何か分からなかった(と供述しているが)、酔っていたとはいえ、(Aさんは)具体的に証言している」等と述べ、Aさんの証言は全体的に信用ならないとして、強制性交を認めませんでした。そして東京高裁が最終的な強制性交分の和解金額としてAさんに提示したのは、僅か80万円でした。担当裁判官は判決になれば「Aさんを負かす、附帯控訴分(妊娠させた分)もどういう結果になるか分からない」と云うので同提示金額を呑むしか選択肢がなく和解成立をさせられました。
(28)裁判所はBの強制性交を認めない理由として「本件ホテルまで同行したこと」(一審)「部屋の中まで入ったこと」(一審)「朝まで一緒に本件ホテル内で過ごしたこと」(一審)「2回にわたって性交したこと」(一審)「妊娠が判明した後、Bのアパートまで一人で行って話合いをしたり、Bとの結婚を一時的には選択肢の一つとして考えていたこと」(一審、二審)「Aさんが原案を作成した和解書には、AさんとBが交際関係にあったことを前提にした記載があること」(一審)「ホテルの受付があったこと、(ホテルに上がる際に)靴を脱いだこと」(二審)を挙げており、これらの理由はいずれも被害者であれば助けを求めた「はず」、逃げた「はず」といった「思い込み」や「決めつけ」を前提にしたもの(いわゆる強姦神話)です。私は、Aさんがホテルの部屋に入ってから、Bに対し抵抗しているし、抵抗したことを証言もしていること、それに対し、Bからは有効な反論、反証がなかったにも拘らず、裁判所はAさんの証言が全体的に信用ならないとして、僅か80万円を提示したことにつき、それが裁判所の良心なのかと、性暴力被害者の心理、人権、被害の実態・実状を理解しようとしない裁判所に対し、私は憤りを禁じ得ませんでした。性暴力被害の実情・実態と乖離した裁判官(裁判体)の無理解・偏見を正すために被害者や関与した弁護士が声を上げる、裁判官を批判する運動は根気強く続けなければなりません。

(注1)しかし、尋問で、BはB自宅の私鉄の最寄駅(自宅まで徒歩約14分)への終電に間に合わなかったが、B自宅のJRの最寄駅(自宅までタクシーで15分もかからない)までの終電には十分間に合ったことが明らかとなり、BはAさんに対し「終電がなくなって帰れない」と嘘を言ったが、本当はJR線の終電に乗って帰宅することが出来たのであった。
(注2)同和解書案は、Aさんが経済的、精神的に追い詰められている状況下で、ネット上からダウンロードした雛形を元に、1時間足らずで急いで作成したものであり、精査する時間などなく、金額等をAさんが雛形に入力したものであった。同和解書の雛形には「交際を解消する」「情交関係」の文言が使用されていたことから、B代理人はAさんがBとの関係を「交際関係」「情交関係」であると認めていたものとして、Aさんが強制性交であるとの主張を否定する材料として援用し、主張した。また、一審判決においても、同和解書の文言を「原告と被告が交際関係にあったことを前提にした記載がある」と認定し、強制性交であることを否定する理由の一つとして挙げた。
2007/7/30 セクハラ被害解決事例と教訓
1.1999年に改正男女雇用機会均等法が施行されてから8年が経ちますが、セクハラ被害は後を絶ちません。
2.2007年2月8日にHPに掲載したセクハラ判決以外にも、私は2007年に2件依頼を受けました。
そのうち1件は、職場で上司から業務中に約7年に亘って、セクハラ発言やみだらな行為を強要するなどのセクハラ被害に遭っていました。元上司と会社に対し慰藉料の支払いを求めて静岡地裁に民事提訴後、訴訟上の和解が成立し、慰藉料600万円の支払いを受けました。
そして、もう1件も職場の上司から強制わいせつと強姦未遂の酷い内容の被害を受けた女性の依頼でしたが、上司と交渉した結果、被害女性の要求した慰藉料500万円を全額支払う(但し、長期の分割)との内容で示談しました。後者の場合、民法715条1項の使用者責任が問いにくいケースでしたので、会社は交渉相手としませんでした。
事件発覚後、前者は退職、後者は懲戒解雇となりました。
3.前者の事件で、被害が約7年という長期に亘ったのは、自分は被害者であるのに自ら退職することに抵抗があったこと、転職した場合には大幅な収入減につながること、家庭の事情等があり会社を辞める選択は困難であったこと、上司が役職者だったため仮に会社へ被害を申告しても会社はその上司に厳正な処分を下さないのではないか、そして逆に自分が上司から報復されるのではないかと恐れ、会社には被害を申告できずにいたことが、その理由です。一方で、被害女性が、会社を辞めたり誰かに相談することもなく長期に亘って上司から被害を受け続けていたということが、裁判で被害女性の請求した慰藉料1000万円について裁判官の理解を得る上での“壁”になりました。
4.前者の被害女性は長期に亘って被害を我慢し続け、限界にまで追い詰められて知人に相談し、当事務所を紹介されました。後者の被害女性はこのHPを見て、当事務所に相談に来ました。
セクハラ被害で泣き寝入りすることが次の被害を助長させることに繋がりかねないことは言うまでもなく、前者の裁判でも明らかのように、長期間泣き寝入りし続けると、その後の被害回復でも不利になってしまいます。職場でセクハラ被害に遭った場合は、すぐに公的機関、弁護士などに被害を訴え事態の改善を求めることが重要です。
5.弁護士の仕事として法的結着をつけましたが、トラウマやPTSDを背負うお2人に今後も力になれることがあったら協力を惜しむものではありません。
 
2007/2/8 セクハラ食堂店主に110万円の賠償命令〜静岡地裁民事2部2係2007年2月7日判決
1 事案の概要(判決より引用)
 本件は、被告が店主をしている食堂でパート店員として働いていた原告が、被告から、臀部を触る、揉む、卑猥な言葉を言う、股間を臀部を押し当てる、キスをするような仕草をしたり胸を触るような仕草をする、原告がトイレに入るとドアを開けようとドアをガタガタさせるなどのセクハラあるいはわいせつ行為をされたと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として550万円(慰藉料500万円,弁護士費用50万円)とこれに対する最終の不法行為日である2006年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払いを求めた事案である。

2 裁判所の判断
(1) まず、原告がトイレに入った際、被告がトイレのドアをガタガタと揺さぶったことがあること、2006年4月25日に、被告が、作業をしている原告の背後から原告の尻を両手で持ち上げるようにして触ったこと(原告は「揉んだ」と表現している)については、当事者間に争いがない。
 また、証拠(甲5,甲6の1,甲6の2,甲7,甲8,甲10,甲11,証人3名,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、さらに次の事実が認められる。
@ 被告は、週に複数回、原告の臀部を触っていた。
  なお、被告のこのような行為は、原告が不法行為として主張する2005年5月よりも前からあったが、当初、原告はこれを明確に拒絶するような態度は取っていなかった。
A 被告は、原告と2人きりになった際、客席で作業をしていた原告のところに、壁伝いに忍び寄った。原告は「きゃー」と言って逃げた。
B 被告は、原告に対し、「舐めたい」とか「しゃぶれ」などと言った。
C 被告は、複数回、原告に対し、口をすぼめてキスをするような仕草をしたり、胸を触る(あるいは揉む)ような仕草をしたりした。
D 被告は、必要もないのに、作業をしている原告の後ろの狭いスペースに無理矢理身体を入れて、原告の臀部と被告の股間が押しつけられるような状態にした。
E このような中で、原告は、2005年5月ころ、同僚に対し、「親方がしゃぶれとか、なめたいとか言った」などとして、被告のわいせつ行為について相談したことがあった。また、原告は、2006年4月28日にも、前記同僚に対し、被告が、2006年4月25日原告の臀部を揉んだことなどを話した上で、「夫が仕事に行くなと言っている」などと告げた。
(2) 被告の原告に対する上記各行為は、原告の性的自由を侵害するとともに、女性労働者である原告が不快を感じることにより就業を継続する上で看過できない程度の支障を生じさせたものといえるから、セクシャルハラスメントにも該当し、不法行為を構成する。

3 損害の額
(1)慰藉料  100万円 
  上記各不法行為の具体的に内容(態様,期間,頻度など)、これに対する原告の対応、原告が精神的苦痛を感じ2006年5月2日に本件食堂を退職するに至ったこと、原告の従前の収入の状況、不法行為後の被告の態度・態様、その他本件に顕れた一切の事情を考慮し、100万円をもって相当とする。
(2)弁護士費用  10万円

4 原告代理人の評価
(1) 被告は弁護士を立てず本人訴訟を通したが、その主張の要旨は「@Hな冗談やひょうきんな仕草は親方のキャラクターであり、原告も承知の筈。A働いている被告の妻や他の店員は、被告が原告にわいせつ行為をしたことは露ほども思っていない。B06.4.25.頃、原告の臀部に手が触れたのは、稚戯的な親しい仲での行為、茶目っ気から出た行為である」というもので、全く反省のない態度で終始した。
(2) セクハラ行為の期間,頻度,態様の悪質性、被告の応訴態度における反省のなさからすると判決の慰藉料100万円というのは少ないと思います。
  判決理由にある「(セクハラ行為に対する)原告の対応」とは裁判官が原告本人質問の折に「なぜもっと早く食堂をやめなかったのか」と質問したことと、結びついたものではないかと私には気になるところです。これに対する原告の云い分は、「自分は悪くないのに、なぜやめなきゃいけないという想いでギリギリのことろまで働いていた」というものです。又「原告の従前の収入の状況」が慰藉料の算定要素となる考え方もよく分りません。
  判決にご意見・感想のある方は、メールやFAXを当事務所にお寄せ下さい。
(3) 静岡地裁でのセクハラ判決は久し振りではないかと思います。
  セクハラ行為自体は減ってはいないと思いますので、事ある毎に取り上げて、社会に警鐘を鳴らす必要があると思い、取り上げました。
  セクハラに泣き寝入りは無用です。
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