静岡地裁(民事1部3係) 2005年1月11日判決 認容額110万円(請求額270万円) |
第1 当事者
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1. |
原告Iさん(男、1926年1月24日生) |
2. |
被告K(男、1969年12月27日生) |
3. |
詐欺実行犯 版権処理機構高井得博と名乗る男 |
4. |
原告が200万円を振込んだ口座は、三和銀行池袋支店、名義:版権処理機構 |
第2 事実経過 |
1. |
1995年頃、Aという紳士録業者から履歴照会があり、返送。 |
2. |
1998年6月、B出版社の紳士録(Iさん分掲載)を15万円で購入。この紳士録掲載を機に抹消名目の電話が架かってくる。 |
3. |
2000年3月6日、紳士録からの抹消を名目に脅迫と欺罔により合計23万1000円をジャーナルイントラストに振込む。 |
4 |
(1) 2000年7月6日、版権処理機構高井得博と名乗る男から「紳士録に載っているあなたの版を抹消しないとこれからも次々と金員を請求される。最終的には版権を処理するのはウチしかない。紳士録業界を支配するドンがいて、そのドンが今回70歳以上の功労のある人に限り版権を処理することを決めた。これは特別な計らいであり、この機会を逃すと次はいつ処理できるか分からない」と申し向けられ、今処理しないと今後も請求が続くかのように脅かされた。更に高井は処理費として20万円、処理に当っての保証金として180万円、合計200万円の支払いを要求し、このうち保証金の180万円に関しては3ヵ月後の10月6日には返還すると明言し、支払を迫った。 |
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(2) 2000年7月7日、原告は200万円を振込む。 |
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(3) 保証金180万円は返金予定日になっても返金されず。版権処理機構に電話を入れるも不通。 |
第3 被告に辿りつくまで |
1. |
2002年1月23日、原告代理人は三和銀行池袋支店に口座開設者の住所・氏名の開示請求をするも、拒否される。 |
2 |
(1) 2002年2月21日、原告は三和銀行(UFJ銀行)を被告として、「原告は人格権の一部である犯罪加害者に関する情報を知る権利を妨害された」ことを根拠に慰謝料10万円、弁護士費用5万円の支払いを求めて提訴。 |
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(2) 2003年3月17日、静岡地裁民事1部2係は原告敗訴の判決言渡。 |
3 |
(1) 2003年9月25日、原告は被告版権処理機構こと某とUFJ銀行を被告として、連帯して200万円+慰謝料+弁護士費用(合計270万円)を請求する本訴を提訴。 |
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(2) UFJ銀行に対する請求の根拠は、債権者代位権(民法423条)の行使。 |
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(3) 2003年10月28日、裁判所は版権処理機構こと某の提訴は、当事者の表示として特定不十分として補正命令(2週間以内に住所・氏名を特定せよ)。 |
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(4) その頃、UFJ銀行から原告代理人に弁護士照会すれば口座の住所・氏名を開示すると連絡有。やっと口座開設者たる被告が分かる。 |
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(5) 被告の言い分〜弁護士をつけて応訴「後楽園の場外馬券場で知合った男にファミレスでメシをご馳走になったり、コーヒーがジュース、カレーライスをご馳走されたり、競馬で負けがこんでいたとき、1万円の小遣いを貰ったことがある。その男から『今度、銀行の通帳を作ってくんない』といわれ、応じた。通帳と印鑑とキャッシュカードをその男に渡した。名前も職業も電話番号も一切聞いていない」と。「払った原告が悪い」と。 |
第4 判決 |
1. |
高井ないし版権処理機構は民法709条の責任を負う。 |
2. |
被告Kは、民法719条2項(幇助者)、1項(共同不法行為)の責任を負う。 |
3. |
過失相殺50%、慰謝料50万円は認めず。実被害200万円、弁護士費用20万円の内、50%の110万円を認容。 |
4. |
他人への譲渡目的での預金口座の開設行為は、譲渡された預金口座が詐欺等の犯罪行為に容易に利用される危険があり、態様によっては、金融機関に対する詐欺罪として問擬されかねず、また、預金口座の通帳等の譲渡行為も、本件当時には、これを規制する法律はなかったものの、態様によっては、平成16年12月30日に施行された「金融機関等による顧客等の本人確認及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律」の規制対象となる悪質な行為であって、被告の開設した本件口座は、その入出金の状況に照らせば、本件詐欺行為と同様の詐欺行為に利用された可能性が高いことにも鑑みれば、本件口座の開設及びその通帳等の譲渡に安易に応じたことは、厳しく非難されなければならないと考えることを付言する。 |