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2015/10/23更新
2015/10/23
2015年3月から4月に掛け、静岡市在住のAさん(男性)は、携帯電話に届いたダイレクトメールをきっかけに、「株式会社ピクシー」と称する業者から、女性と会ってデートをすることで金銭援助を受けられるという交際クラブに勧誘され、入会させられて、女性と会うための保証金名目で計800万円以上の金員を騙し取られる詐欺被害に遭いました。
株式会社ピクシーは契約書等に記載の住所では登記の確認が取れず、株式会社を騙ったものと思われ、法人格が特定できませんでした。そこで、Aさんがピクシーから与えられたその他唯一の情報は、保証金名目の金員の振込先に指定された銀行口座であったことから、私は当該口座が開設された北洋銀行に対して弁護士法23条の2に基づく照会を申出、口座名義人情報の開示を求めましたが、同行からは2015年9月11日付で、理由等の記載もなく、「回答できません」との回答書が届きました。
それに並行して、私が調査したところ、当該口座は振り込め詐欺救済法に基づき既に口座凍結されており、当該口座には凍結時に100万円以上の残高が残っていたことが判明しました。また、当該口座は預金債権消滅手続きが開始され、その権利行使届出満了期間は2015年11月2日であり、その期間を経過してしまうと預金債権が消滅して被害回復分配金の手続きに移行し、当該口座を仮差押すること自体が不能となってしまう状況でした(その時点で既に1ヶ月を切っていました)。
そのため、Aさんは被害回復のために、本訴提起に先立ち、直ちに当該口座を仮に差し押さえる必要がありましたが、銀行から弁護士照会に対する回答を拒否された以上、他に口座名義人(仮差押債務者)を特定する手段はありませんでした。
そこで、私は、ヤミ金等による被害回復のために広く運用されている、住所不明及び氏名カタカナ表記の預金口座に対する債権仮差押命令の申立と、それらの命令が多く発令されている例に倣い、当該口座に対しても、住所不明及び氏名カタカナ表記のまま、静岡地裁に債権仮差押命令を申し立てました。
ところが、静岡地裁の担当裁判官は、「債務者の特定が不十分なので発令できない。本訴における調査嘱託等の回答を待つところまで保留にしておけないので、速やかに取下げを検討せよ」との見解を示しました。そのため、私は、他の裁判所においては同種ケースでの仮差押が全国的に多く認められていることを主張し、把握している限りの決定例を静岡地裁に提出しましたが、それでも担当裁判官は「私の考え方は違う」として、Aさんに対し、7日以内に債務者を特定せよとの補正命令を出した上で、申立の却下命令を出しました。
私は直ちに東京高裁に即時抗告の申立を為し、前述の理由に加え、本件にかかる保全の必要性や事態は緊急を要することを更に強く主張したところ、2015年10月19日、東京高裁第21民事部中西茂裁判長は「原命令を取り消す」との決定を為し、Aさんに担保金を課すことなく、速やかに当該口座の仮差押命令を発令してくれました。
仮差押の申立に際し、通常、裁判所は申立債権者(Aさんに)債権額の2割~3割に当たる担保金を供託させるものですが、今回、東京高裁が担保金不要という特殊ケースで仮差押命令を発令したのは、事案の悪質性と、供託手続きを取っていては仮差押が間に合わないとの判断によるものと考えられます。
2006/7/14
2006年7月12日~13日に、新聞各紙が、「『高級婦人とデートするだけで数万円稼げます』と雑誌に虚偽の広告を出し、現金を振り込ませた詐欺の疑いで静岡県警が逮捕したグループの被害者が、全国で1万人以上にも上ることが分かった」「被害総額は3億円以上とみられるが、被害届を出したのは12日現在でわずか10人」と報道している。
私は約20年前、成人向け雑誌で「出張ホストで稼げます」の募集広告に釣られ、結局50万円の保証金を取られただけに終った青年の詐欺被害を受任し、苦労して実行犯一味の一人を特定して、損害賠償提訴し、勝訴判決を得たが回収できずに終った事件を思い出す。約10年前、同じ謳い文句で組織的に被害を与えていたグループを東京の弁護団が組織を追い詰め、被害回復に一定の成果を上げていたことがあった。
今回、静岡県の地元で全国にまたがる被害者1万人を超える事件が繰り広げられていたこと、警察への被害届がたったの10人というのも、驚くばかりである。
「浜の真砂は尽きるとも、世に詐欺の種は尽きまじ」である。
被害者が多く警察に名乗り出るなり、協力をして、犯行一味に厳罰を加えることが模倣犯防止につながる。
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