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刑事1〜3審における明白な事実認定の誤まり |
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民事1審の原告本人尋問の中で言及したところであるが、本件事件の争点となっている1034号電信案(甲42)の3項「請求権」の項で、原文は「本大臣より重ねて何か政治的に解決する方法を探求されたく、なおせっかくの320がうまくいかず、316という端数となっては対外説明が難しくなる旨付言しておいた」とあるが、刑事1審判決でも2審でも最高裁決定でも「対米説明」と認定されており、明白な事実誤認を冒しています。
対外とは、外務省及び政府からの外のという意味、要するに国会だとか、メディアだとかを指すものです。甲42の証拠の原文も「対外説明」とあるし、文脈上も対米説明では意味をなさないのだから「対米説明」は全くの事実誤認である。
然るに刑事1〜3審はこの明白な誤まりを是正することなく確定させている。最高裁決定を含め刑事確定判決の脆弱さを感じざるを得ません。尚、民事1審判決はこの点につき何の根拠も示さずに是正されている。 |
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同じく民事1審原告尋問の中で指摘したところであるが、無罪判決を言渡した1審判決でさえ、吉野証人の嘘を看破れず、「秘密書簡発出の点に終局的には米国側からの要求を阻止できたことが認められ、以上の事実を総合してみると、体裁を整えることや秘密書簡発出を巡る折衝もなお違法ということはできない」と判示した(乙2p61)のです。この点が誤判であったことは、米公文書の存在や、2006年2月以降の吉野発言によって明らかであります。この点も刑事判決の事実認定のもろさを示しています。 |
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次に堀籠幸男現最高裁判事が本件刑事最決の判例解説を書いております。担当調査官が当該判例解説を書くと聞いておりますので、堀籠判事が、当該担当調査官であったと推察します。
同判事は解説のp159で以下のとおり述べています。
「いわば戦争によって失ったわが国の領土の一部を外交交渉という平和的手段により返還してもらうという重大な国家目的を達成するために、わが国の外交担当者が米国の外交担当者と行った一種の操作が対米請求権の財源問題である。すなわち、沖縄の施政権返還に伴い日本側がアメリカに支払う金員は、いわば政治的な?み金として3億2千万ドルと決ったが、そのうちから400万ドルは対米請求権の財源として使用することが合意された。しかしアメリカ側は財源の実質的負担は日本がすることになったとして国内を説得する必要があり、他方、日本側は請求権の財源を日本が負担するものではないとして国内を説得する必要があったため、右400万ドルが3億2千万ドルのうちから支払われることを秘匿しておくという合意がなされたものと考えられる。
そうだとすると、我国が沖縄の施政権返還に伴い支払うべき金員の総額については国会の承認を得るものとされているのであるから、対米請求権の財源の処理の仕方について、それぞれの国内対策上若干の形式上の操作を加えたことは、外交交渉の過程ではある程度やむを得ないところであって、外交担当者に授権された範囲内のことであるというべく、違法とまではいえないのではなかろうか」
と記述している。
これらは、本件最高裁決定を担当した最高裁判事の事実認識や法的評価を端的に示していると見るのが自然である。 |
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しかしながら、これらの事実認識が悉く間違っていたことは、本訴1・2審で提出した証拠によって明らかです。
甲11(柏木・ジューリック秘密覚書)、甲24の1〜5(ケーススタディ)、甲1の1〜3(2002年発掘の米公文書)、甲2〜5(2000年発掘の米公文書)、甲38(若泉敬論文)、2006年2月吉野発言などによって、明らかであります。
解説が示した「沖縄の施政権の返還に伴い、日本がアメリカに支払う金員は3億2千万$に決まった」というのが抑々客観事実に反することであるし、400万$を米側は財源の実質的負担は日本が負担することになったとして国内を説得する必要がありとあるが、日本が米国に頼み込んだことで、アメリカが国内説得の必要性は全く感じていなかったものです。沖縄密約の出発点は、1969年の日米共同声明の前に柏木・ジューリック間で掴み金5億2000万$弱を日本が支払うということから始まっており、これに加算されたのが復元補償費の本件400万$とVoAの移転費1600万$の合計2千万$であり、この総額の中味を国内説明できるように、偽装し直した上で協定化する作業が大蔵省から外務省へ押しつけられたというのが歴史の真実なのである。
ところで、刑事公判では、日米共同声明の時にすでに沖縄返還の財政取り決めは大方決着ついていたことは一切法廷に顕出されていなかった。刑事弁護人の弁論要旨には一切触れられていないことからもそのことは判る。
従って、最高裁第1小法廷の判事の認識と評価が「国内対策上若干の形式上の操作を加えた」とか、「外交担当者に授権された範囲内のことであり、違法とまでとはいえない」と外務省に同情的評価を与えていたということは全く的はずれという外ないのである。
刑事裁判として成り立たせるためには、日米共同声明の時点からの事実と証拠が刑事公判廷に顕出され、1034号電信文が法の保護に値する秘密なのか否か、佐藤政権の権力犯罪を示す証拠なのか否かが論ぜられなければならなかったのである。
米国の情報自由法によって、近時情報公開された前述の事実なり証拠が刑事公判で顕出されていれば、控訴人が無罪であったことは必定である。 |
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民事控訴審になってからも、密約を裏付ける米公文書が発掘され、控訴人は甲107〜112、113として提出することができました。前者は「米国による沖縄の地権者に対する『自発的支払い』について、日本政府が、電信文の漏出により国会においてかなりの苦境に陥っており、(日本政府が)信託基金の設立延期を米国側に要請し、米財務省がこれに応えて1973年に延期を決定したというものです。
後者は、沖縄返還後も、有事の際に米軍が核兵器を持ち込むことを日本側を認めた米公文書の発掘です。甲38の若泉敬論文の正しさを裏付けるものです。
このように今後も米の情報自由法による米公文書の開示と発掘によって、続々と密約やその内容と詳細が発掘され、1034号電信文案が法の保護に値する秘密に該らず、却って佐藤政権の権力犯罪を示すことが一層明らかになっていくことが確実に予測できます。 |
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今の処、吉野発言以外に告白する関係者は出現していませんが、外務省関係者、検察関係者から出て来ないとは限りません。
又、日本で政権が交代した時に、外務省が隠してやまない沖縄交渉関連文書が出て来ないとも限りません。それらが出て来た時、控訴人の冤罪性が益々磐石なものとなることはあれ、検察主張立証の正しさを裏付けるものは出て来ようがあり得ません。同じく刑事最決の正しさを裏付けるものは出て来ようがあり得ません。 |
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吉野文六は、本件一審判決後も朝日新聞記者の取材に応じ、それは甲88の1〜4のインタビュー記事となっている。ここでも数々の事実を重ねて暴露している。
国家公務員は退職後も守秘義務が課せられている。しかし、外務省や政府高官や司法当局から、吉野の国家公務員法違反の言及はない。吉野が真実を述べているから手も足も出せないのである。 |
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真実は裁判の出発点である。
沖縄密約事件において、今や真実が何かは明らかである。東京高裁第9民事部におかれては、刑事最高裁の誤判を正し、公正な判決を言渡されんことを期待するものであります。 |