2004.11.9UP
■ Kさんvsヤマギシ会訴訟、最高裁、Kさんの上告棄却判決(2004年11月5日)。1億円の返還を命ずる2審判決が確定
 最高裁第2小法廷は、上告受理決定はしたものの、Kさんの上告を棄却し、1億円の返還を命じた東京高裁判決が確定しました。判決要旨は以下のとおりです。
「前記の事実関係によれば、上告人は、前記のとおり、講習等を受講し、被上告人の思想、活動の目的、内容等を認識し、理解した上で、参画を決意し、被上告人との間でその全財産を出えんする旨の約定をし、これに基づきその全財産を出えんしたものである。上記出えんに係る約定及びこれに基づく上告人の出えん行為は、ヤマギシ社会において要求される「無所有」の実践として行われたものであり、上告人が、終生、被上告人の下でヤマギシズムに基づく生活を営むことを目的とし、これを前提として行われたものであることが明らかである。ところが、本件においては、上告人は、被上告人への参画をした後、前記のような事情の変更があったことから、被上告人の同意を得て被上告人から脱退をしたものである。これにより、上記出えんに係る約定及びこれに基づく上告人の出えん行為の目的又はその前提が消滅したものと解するのが相当である。そうすると、上記出えんに係る約定は、上記脱退の時点において、その基礎を失い、将来に向ってその効力を失ったものというべきである。したがって、上記上告人の出えん行為は、上告人の脱退により、その法律上の原因を欠くに至ったものであり、上告人は被上告人に対し、出えんした財産につき、不当利得返還請求権を有する。
 次に、上告人が被上告人に対して不当利得として返還を請求し得る範囲について検討する。上記不当利得返還請求権が上告人の脱退により事後的に法律上の原因を欠くに至ったことを理由とするものであること、上告人は、脱退するまでの相当期間、長男及び次女と共に、被上告人の下でヤマギシズムに基づく生活を営んでいたのであり、その間の生活費等は、すべて被上告人が負担していたこと、また、上告人は、自己の提供する財産が被上告人や他の構成員のためにも使用されることを承知の上で、その全財産を出えんしたものであること等の諸点に照らすと、上告人が被上告人に対して出えんした全財産の返還を請求し得ると解するのは相当ではない。上告人の不当利得返還請求権は、上告人が出えんした財産の価額の総額、上告人が被上告人の下で生活をしていた期間、その間に上告人が被上告人から受け取った生活費等の利得の総額、上告人の年齢、稼動能力等の諸般の事情及び条理に照らし、上告人の脱退の時点で、上告人への返還を肯認するのが合理的、かつ、相当と認められる範囲に限られると解するのが相当である。
 なお、上告人と被上告人との間の参画に係る契約には、上告人が出えんした財産の返還請求等を一切しない旨の約定があるが、このような約定は、その全財産を被上告人に対して出えんし、被上告人の下を離れて生活をするための資力を全く失っている上告人に対し、事実上、被上告人からの脱退を断念させ、被上告人の下での生活を強制するものであり、上告人の被上告人からの脱退の自由を著しく制約するものであるから、上記の範囲の不当利得返還請求権を制限する約定部分は、公序良俗に反し、無効というべきである。
 本件において、脱退の時点で上告人が被上告人に対して1億円の不当利得返還請求権を有するとした原審の判断は、上記の諸般の事情及び条理に照らし、相当ということができるから、原判決は、結論において、是認することができる。論旨は、採用することができない」
 2審の東高判決と違うところは、
@ 脱退の時点で、将来に向って(出えんに係る約定の)効力を失い、出えん行為は法律上の原因を欠くに至ったもので、不当利得返還請求権を有する
A 脱退の時点で、上告人への返還を肯認するのが合理的、かつ相当と認められる範囲に限られると解するのが相当である
としたところです。
 東高判決は、
@ 不返還約定は『一切』返還しないとする点で公序良俗に反し無効
A 不返還約定がどの範囲で公序良俗に反するとされ、どの範囲で財産を返還すべきかは、…。慎重に判断する必要がある
としていました。脱退、即、不当利得返還請求権の発生という法理論が他の持込財産返還請求事件等にどのような影響を及ぼすのか、よく検討したいと思います。
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